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(No.330)2010年11月15日

『オリンピック招致について(その22)』

11月9日、10日の中国新聞に同社が行った電話世論調査の結果が掲載され、「民意」の尊重を求める市民の意識が鮮明になったことや、招致に反対する回答が、賛成を大きく上回り、その多くが財政悪化を懸念しているといったことが伝えられていました。

中でも、1千億円近い寄付金集めの実現性に厳しい見方がなされていることが明らかになっていました。

確かに、そのこと自体、現実離れした計画であり、市民の皆さんの懸念も十分理解できます。しかし、問題はそれだけではないと思っています。

と申しますのも、現在の財政計画で見込まれている寄付金以外の収入、例えば、企業協賛金、これは、TOPスポンサー収入、ローカルスポンサー収入、ライセンス収入の三つの合計ですが、金額にして1,182億円、大会運営経費の27.3%と、収入の中で、最も多く見込まれているものですが、その実現性自体、私には、疑義があるのです。

以下、一つずつ検証してみたいと思います。
   なお、検証に当たっては、「2016年オリンピック・パラリンピック競技大会招致活動報告書」(特定非営利活動法人東京オリンピック・パラリンピック招致委員会)及び「長野オリンピック騒動記」(相川俊英著 草思社発行)を参考としました。

最初はTOPスポンサー収入についてですが、財政計画では362億円が見込まれています。しかし、これはどのような根拠に基づき、算出されたものなのでしょうか。

TOPスポンサーとは何かということと併せて、お話をしてみたいと思いますが、まず、そもそも、このTOPスポンサーとはということですが、オリンピックのマーケティング事業の中で最も上位に置かれている制度で、TOPとはThe Olympic Partner(Programmeとしている資料もある)の頭文字で、スポンサーの中で最も上位に位置するものなのです。

そして、IOCが企業と直接契約して、契約企業には五輪マークやマスコットマークなどを独占使用させることを許可し、世界的な規模での広告や販売促進活動を認めるというものなのです。

また、TOPスポンサーは1業種1社に限定され、基本的に契約期間は4年間、スポンサー料は公表されていませんが、更新のたびに金額は引き上げられる傾向にあるようです。

1988年の冬季カルガリー大会と夏季ソウル大会を対象として第一期(TOPⅠ)の制度が開始されたこのプログラムは、9社で9,600万ドルの収入を得て始まったと言われています。

また、2010年の冬季バンクーバー大会と2012年夏季ロンドン大会を対象としたTOPⅦでは、2009年のTOPⅦ期間開始時点で以下の9社が契約をしています。

しかし、TOPⅦのスポンサーの顔ぶれは、前期のTOPⅦまでの契約スポンサー数から、コダック、ジョンソン&ジョンソン、マニュライフ、レノボの4社が撤退し、また、そのレノボの代わりのコンピュータ機器分野でエイサーが加わって、9社となったという経緯があります。

そして、2010年7月16日、IOCは米化学大手のダウ・ケミカルと、さらに7月28日、米家庭用品大手のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)と契約したと発表しています(期間は2020年まで)。つまり、2012年ロンドン五輪に向けた同プログラムのスポンサーは2010年9月末日現在で11社となっているようです。

※TOPⅦ Partners 2009−2012 9社+2社

  • ■コカコーラ(TOPⅠ〜):ノンアルコール飲料分野
  • ■パナソニック(TOPⅠ〜):
  • ■VISA(TOPⅠ〜):個人支払システム
  • ■マクドナルド(TOPⅣ〜):店舗フードサービス分野
  • ■AtosOrigin(TOPⅤ〜):IT分野
  • ■GE(TOPⅤ〜):
  • ■オメガ(TOPⅤ〜):計時、得点表示、リザルトサービス分野
  • ■SAMSUNG(TOPⅥ〜):無線通信機器分野
  • ■acer(TOPⅦ〜):コンピュータ機器
  • ■ダウ・ケミカル(TOPⅦ途中〜):化学
  • ■P&G(TOPⅦ途中〜):家庭用品

直近の日本で開催されたオリンピックは1998年の長野オリンピック(冬季)ですが、その事例でみると、その当時のTOPスポンサーは、コカコーラ、IBM、VISA、松下電器、富士ゼロックス、マクドナルドなどの11社。97年から2000年のシドニー五輪までの4年間を契約期間。スポンサー料は公表されていませんが、1社当たり四千万ドルから五千万ドル(約50億円 当時)とみられます。

スポンサー交渉はIOCが行い、TOPスポンサーからの協賛金の配分は、IOCが10%、アメリカオリンピック委員会(この仕組みの生みの親として)が20%、各国のオリンピック委員会に20%、が配分される、したがって、まず最初に50%がIOC関連に入る仕組みになっているようです。
   そして、残りの50%を夏季と冬季の大会組織委が2対1の比率で配分する規定になっています。

このことを踏まえますと、広島の取り分は、単純には、全体の33.3%になる計算になるのですが、長野五輪の時の規定によると、その中からさらに7分の1をJOCに配分するような契約になっていたそうですから、この前例にならいますと、全体の約28.6%が広島の収入となる計算になります。

これに対して、このたび広島市が作成した計画書では、全体の50%が広島の収入となると解釈される記述になっていますが、これは間違いないでしょうか。50%のつもりで計算した結果が326億円だとすれば、それは大きな見込み違いとなります。

ちなみに28.6%として計算し直すと186億円となります。
   つまり、140億円のマイナスということになるのです。

さらに、もう一つの論法で、仮に全体の28.6%程度しか入らないという前提で計算した結果が326億円ということであれば、TOPスポンサーによる収入の総額は、1,267億円と見積もったということになります。

2008年の北京大会では、TOPパートナー総収入は12社で8億6600万ドルとも言われています(IOCによると自称10億ドルだそうです)。

明確に総収入額が公開されてはいませんので、どれが正確な金額なのか不明ではありますが、IOCは価格をつりあげるために過大に表現しているとも考えられるため、仮にTOPパートナー総収入が8億6600万ドルの方としますと、現在のレート1ドル83円で計算して、719億円となります。単純に1ドル100円として計算しても866億円です。広島市が見積もった1,267億円には到底及びません。1.5倍程度もの差があります。しかも、北京大会よりもTOPパートナーの数は現在11社と1社減という傾向を見せています。

さらにこの広島市が作成した計画書では、ダウ・ケミカルやP&Gは加えられておらずTOPパートナーは9社となっています。9社として見積もったのであればなおさらです。
   どちらの論法をとるとしても、かなり過大に見積もっているように思えます。

次のローカルスポンサーによる収入についても、730億円を計上していますが、どのような算出根拠に基づいているものなのでしょうか。

TOPスポンサーの下位にあるのが。この「ローカルスポンサー」です。
   これは、五輪組織委員会が独自に契約交渉を行って締結できるスポンサーで、五輪マークなどの使用を国内に限って使用することが可能となります。長野五輪のときは「ゴールドスポンサー」と呼ばれ、日本国内のメインスポンサーという位置づけで1社約20億円。しかし、TOPスポンサーの業種分野とカブらないことなどが条件で、契約するにはIOCの承認が必要です。

やはり1業種1社に限定され、スポンサー料の5%をIOCに上納しなければなりません。さらにJOCが設立した代理店「ジャパン・オリンピック・マーケティング」社に10%の手数料を取られ、なおかつ残りの7分の1をJOCに上納することになっていたそうです。

この前例にならいますと、全体の72.86%が広島に配分されることになる計算となります。

また、長野のときの「ゴールドスポンサー」はミズノ、服部セイコー、キリンビール、NTT、KDD、トヨタ、アムウェイ、八十二銀行(地元)の8社でした。20億円として計算すると、20億×8社×72.86%=約116.6億円の収入となります。

さらに、その次にランクされるのが「サプライヤースポンサー」と呼ばれ、協賛金は1社1億円〜7億円程度で、利用できるマスコットデザインなどが制限されます。

サプライヤースポンサーは、物品やサービスの提供が中心で、それらを協賛金に換算するしくみになっています。もちろんこちらも上位ランクのスポンサーとバッティングしないことが条件となります。長野の時のサプライヤースポンサーは、東京海上保険、コクヨ、ブリジストン、山崎製パン、コロナなど国内18社となっています。

1社4億円とすると、4億×18社×72.86%=52.5億円の収入となります。
   長野五輪の実際の収入実績は、「ゴールドスポンサー」と「サプライヤースポンサー」とを合わせて26社で170億円でした。

仮に長野と同じ状態までもっていけたとしても、730億円に到達するには、730億円−170億円=560億円。まだ560億円も不足しています。

730億円を広島市の収入にしようとした場合、ローカルスポンサー全体としては約1,002億円を集めなくてはならない計算になります。単純に20億円級のスポンサーだけだとしても50社以上が必要です。20億円級と4億円級が仮に1対2の割合で契約してくれたとして、1,002億円集めるとすると、20億円級が35社、4億円級が70社で、合わせて105社以上が必要です。それも上位スポンサーとバッティングしないかたちでの105社です。また長野の1998年より経済環境はより厳しくなってもいます。

また、2010年6月15日の朝日新聞の記事によると『JOC資産「危険水域」スポンサー収入減、節約検討』と題し、

「日本オリンピック委員会(JOC)総務委員会は15日、事業活動収入が81億9650万円、同支出が86億5342万円の2009年度決算案を承認した。収入不足を補うために特定資産を4億2千万円取り崩した結果、今後取り崩せる資産が約6億6千万円にまで減った。「危険水域に入ってきている」(JOC事務局幹部)状態だ。

10年度は資産を取り崩さないよう、経費削減策として結団式の簡素化や広報活動の縮小などを検討している。

特定資産の取り崩しは昨年度までの5年間で約9億円に上る。08年北京五輪までの4年間で約100億円あったスポンサー収入が、12年ロンドン五輪までの4年間は約80億円にとどまっている。一方、支出は08年1月に開所した味の素ナショナルトレーニングセンターの運営経費や法人税、東京五輪招致やバンクーバー五輪で現地のホテルを活動拠点として借りた経費などがかさんだ。

としています。このご時世、JOC自体も苦しい状況にあるようです。

さらに、2020広島の財政計画は、2016東京の財政計画に倣っている部分が多いと思われます(長野は「実際」ですが、東京は「実際」ではなくあくまで「計画案」です)。

2016東京の案では「1社につき年間平均額を880万米ドルとし、開催都市決定の翌年から大会開催年まで(2010年〜2016年)の7年間の合計額は6,160万米ドルを見込んでいます」とあり、広島もこれに倣っているのではないかと推測されます。

東京ならまだ可能かもわかりませんが、広島はこのような契約方法では、スポンサー料を見込みどおり得ることは難しいと思います。

当初の見込みよりスポンサーに名乗りを上げる企業が少なかった場合、6年分でもいいからスポンサーになって下さい、5年分でも、4年分でも…、と譲歩せざるを得ない状況になり、スポンサー集めに苦戦している間に、足元を見られて、最悪の場合、最終の1年分のみでもいいからと、大安売りすることにもなりかねないからです。

7年間払い続けた企業と、1年間しか払わない企業が、同一ランクのスポンサーになることが許されるのかという点も疑問に思います。
   いずれにしても、ローカルスポンサー収入の730億円というのは、経済環境的にも、手法的にも到底困難なように思えてならないのです。

そして、最後の三つ目のライセンスによる収入が90億円ということに関してですが、五輪マークやマスコットを商品にして売り出す、いわゆる「五輪グッズ」があります。ライセンス収入というのは、五輪グッズの小売価格の5%か、卸売価格の10%のうち、どちらか高額な方に最低販売見込み数をかけたものが権利金として大会組織委員会に入ってくるもののことです。

しかし、こうした細やかな収入からも、例のごとく、IOCが5%ピンハネし、さらに代理店手数料とJOCのピンハネが加わるのが慣例とされています。

これらをすべて差し引かれた金額が90億円ということは、五輪グッズがいくつ売れればよいのか概算してみました。

例えば小売価格3,000円のグッズが1つ売れたとすると、5%の150円が権利金分となり、そのうちの5%の7.5円がIOCへ、代理店手数料が仮に5%とすると7.5円が代理店へ、JOCへ仮に5%支払うとすると7.5円がJOCへ渡ります。すると手元に残るのは150円−7.5円−7.5円−7.5円=127.5円となります。

これが90億円に達するためには90億円÷127.5円=7059万。実に7,059万個売れなければならない計算になります。3000円のものが約7060万個も売れということは、五輪グッズだけで2,118億円の市場となることを意味します。

ちなみに、キャラクタービジネスで国内トップ3「くまのプーさん」(ディズニー)、「ハローキティ」(サンリオ)、「ミッキーマウス」(ディズニー)で、いずれも1,000億円の市場規模と言われています。

近年のイベントキャラクタービジネスで最も成功したと言われる愛知万博の公式キャラクター「モリゾー&キッコロ」で、4千種類以上ある関連グッズで600億円超の市場規模と言われています(2005年の愛地球博のイベント規模は185日開催で2200万人が入場)。

広島は2,000億円超の市場規模、実に愛知万博の3.5倍を見込んでいることになりますが、過大ではないでしょうか。

巨額の寄付金や売却益が不確実性の強い要素としてマスコミに取り上げられています。確実性高いかのように思われているスポンサー収入ですが、中身をよく調べてみますと、まったく確実性や根拠があるとは思えない数字の列挙となっています。

こうして、調べれば調べるほど、市の提案には不信感が募るわけですが、明確な根拠は示されていません。

招致検討の判断材料として作成された計画にしては、余りにもおそまつと言わざるを得ないわけです。

本当にこの計画に基づいて、判断しようとするのであれば、一つずつ丁寧に検証して、その過程は明らかにすべきだと思いますが、皆さんはどのようにお感じでしょうか。