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(No.261)2008年12月24日

『書籍の中から(Part4) 〜排出量取引を政治カードにするEUに惑わされるな〜』

月刊『WEDGE(2008年11月号)』のOPINIONのページに、米本昌平氏(東京大学先端科学技術研究センター特任教授)が、『排出量取引を政治カードにするEUに惑わされるな』と題して、私たちが正確に理解していない部分について、平易な文章で述べておられましたので紹介します。

10月から日本でEUモデルの排出量取引の試行が始まる。地球温暖化対策の切り札としてとかく過大評価されがちであるが、そのイデオロギー的側面や欠陥が見落とされてはいないか。

という書き出しで、それに続いて、「冷戦が終結し地球環境問題が重要な外交課題に」と見出しが付された本文の中には次のように書かれています。

……地球温暖化問題そのものの政治的性格を押さえておく必要がある。本来、国際政治という空間は、軍事力を背景に国益を争う場である。だから国際政治では、軍事を軸とした安全保障問題をハイ・ポリティクス、通商問題などその他の課題をロー・ポリティクスと呼び、区別してきた。そして長い間、環境問題は国際政治からは黙殺されるロー・ポリティクス以下の地位にあった。

……地球環境問題が正規の外交課題に繰り入れられてきた過程は、冷戦の終焉と連動していた。ソ連の崩壊が始まり、米ソ核戦争の脅威が減るのに反比例して、地球環境問題がその空隙を埋めるように外交課題の順位表をかけ上がってきた。考えてみると、核戦争の脅威と温暖化の脅威はよく似ている。(1)脅威が地球大である、(2)対応策が各国の経済政策と深く連動している、(3)脅威の実体の確認がきわめて困難である。

冷戦終結から16年後の2005年に、イギリスのベケット外相は、「温暖化で気候が不安定になれば、政府の基本的責任である経済・貿易・移民問題・貧困などへの対応は果たせなくなる」として、温暖化問題を外交の主軸に置くことを表明した。

イギリスなどEU(欧州連合)諸国が、温暖化問題を安全保障と同格に据える一つの理由は、EUという不戦共同体がより強固なものになってきたからである。必然的にEU外交は、次の脅威として地球温暖化を強調し、軍縮の場合と同様、過剰に理想主義的な削減目標の言説ゲームへ世界を巻き込み、他に対して倫理的優位に立とうとする。

ヨーロッパ圏における核軍縮に関しては、最近でも、3月22日付けの中国新聞では、「フランスのサルコジ大統領は21日、フランスの航空核戦力を現状の3分の2に縮小し、核弾頭の総数を冷戦期の半分の三百以下に減らす考えを表明した」ということを伝えていました。

また、9月3日付けの同紙では、「G8議長サミットで英国のマイケル・マーティン下院議長に同行している、デイビッド・ウォレン駐日大使は、英国が核軍縮のリーダーシップをとる外交方針を示した」「英国が核兵器を保有している現状について大使は、『他国が核兵器を持ち続けるであろう状況で、最小限の核抑止力が英国の安全保障には必要』との認識を示しつつ、『核兵器のない世界に向け、多国間交渉を促すなど先導的な役割を果たしたい』と明言した」ということが伝えられるなど、確かに、核戦争の脅威も減少しつつあるように思われます。

そうした中で、これまでの核兵器の脅威に代わって、地球環境問題の脅威を新たな外交課題にしているというEUのしたたかさには舌を巻く思いがしました。また、とかく、我が国では、削減数値だけがクローズアップされがちですが、そうした単純な構図ではなく、この問題は、国際政治の脈略からはずして語ることはできないことや、今後の対応を検討していく上でも、外交の枠組みが大きく左右することを改めて考えさせられたわけです。

しかし、そうした中でも、私たちには、喫緊の課題として、この環境問題に対応していくことが求められており、そうしたイデオロギー的側面も踏まえ、国として、私たち市民として、今後どのように取り組んでいくか、大いに知恵を出していかなければならないのではないでしょうか。

私たちが、安心、安全に暮らしていくだけでなく、次の世代に、きれいな地球を残していくために、政治にも、行政にも、企業にも、市民にも、今こそそのことが求められていると思うのですが、皆さんは、いかがお感じでしょうか。