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(No.70) 平成15年9月22日 『変革への問題意識』

 東京の政策担当秘書研修で、三井物産戦略研究所の寺島実郎氏の講演を聞きました。その一部を紹介します。

 十数年前、日本が「バブル」といわれた頃、サラリーマンの夢物語として、「もし1億円の金があれば左団扇なのだが…」という話が成立した。つまり、1億円の金融資産があれば、年5%の運用で500万円の利息が得られるという意味だった。
 しかし、「ゼロ金利時代」を迎え、いくらの金融資産があれば500万円の利息になるかと言えば、約60億円の金融資産が必要となる。
 つまり、この10年で進行したことは、年収500万円の人と、60億円の金融資産を持つ人とが、経済的には等価になったということである。

 一方、サラリーマンの年収は、直近の4年間は下がっているものの、10年前に比べれば10%は増えている。
 これに対して、消費者物価は10年前に比べれば6.5%の上昇であり、収入と物価の相対的バランスの中で「デフレ経済へのソフトランディング」という心理が芽生え、被害者意識のない生活に埋没しているとも言える。
 2002年の統計からも、サラリーマンの年収は、直近の5年間では37万円も下がったが(1997年:613万円→2002年:576万円)、それでも1990年に比べると6.7%の増であり、消費者物価の上昇率5.8%と比べると、収入増ほど物価は上がっていないという構造になっている。
 生活は急速に窮乏化しているはずなのに、以前に比べれば収入は増えているといった心理となり、将来に対する不安感はあるものの、「しかたがない。俺はまだましだ」という諦めが怒りを鈍らせ、国民の決定的なフラストレーションにはなっていないのである。

 また、「弱い立場の人間」である失業者は、1990年の125万人から380万人へと増え、企業がコスト削減のため「派遣、パートタイマー、嘱託」などで職場を維持しており、正規の雇用者でない立場の就業者は2000万人を超えたと推定される。また、若者に流行している「フリーター」というのも、社会的には「未熟練、未組織、低賃金」であり、臨時雇用者に含まれてしまう存在である。
 これら臨時雇用者の増大は、コスト削減の理由だけでなく、IT革命など技術革新により、仕事の中身は平準化し、「誰がやっても同じ仕事」になってきたことから生じてきたものである。

 「労働組合」の現状から見ても、例えば「連合」の組織率は20%を割り、連合に組織化されている労働者700万人の大半は、大企業の正規の社員と公務員である。
 そのため、活動主体の大半が年収500万円以上の安定したサラリーマンであり、「弱い立場の存在」どころか、相対的には既得権益を保持しようという心理に陥りがちな存在になりつつある。

 このように、寺島氏は、国民の危機意識や問題意識を拡散させている構造が重く横たわっていることを説いておられました。
 確かに、大きな「変革」のうねりの中で、生活窮乏者の声は「痛みに耐えて」という言葉にかき消されております。
 しかし、こういった時だからこそ、「弱い立場にある者」に目をやり、現在進行している様々な「不条理」を拒否する強い問題意識や、それに立ち向かう姿勢が必要なのであり、それは「為政者」や「学者」、「ジャーナリスト」に求められるものだと思います。